もう幼き頃ではない中学生の私。あの悪夢の夏休みも終わり、少し落ち着いた日々が続いていた。
夏休みが過ぎた後、あのうそつきのお手伝いさんは、戻って来た。
小柄な体だが、相変わらず着物を着ていて、色っぽくしっかりとぬき襟をしている。
これが色町出身の人だと、さんざん<大人の映画>も観て来た私には分かった。
父は、今までと変らず、あたりまえのように家にはほとんど帰って来なかった。
帰って来ても遅いので会話もほとんどなく思い出す父への存在はなかった。
このおばあさんのお手伝いさんはそれでも父を意識していたのかも・・・・・。
粋な形のカツラや、しっかりとしたぬき襟はそんなことだったのかもしれない。
父はどんなに年がいっていようが、姪である従妹のお姉ちゃんであろうが、女性であれば、
はりきって冗談を言って楽しませる技を持っていた。だから女性にはもてていたと思う。
そんな生活だったが平穏な日々のある夕方、姉が私より先に学校から帰っていて、2階にいた。
夕方の陽射しがまぶしいぐらいに部屋に広がっていて、それだけでゆったりとした
心地の良い気分に浸れそうだった。カバンをおきその暖かい空気の中にとろけそうになりながら、
寝転んだ時、ゆっくりと姉が言葉を発っした。いつもと少し様子が違う声で。
「あのな、今から話すけど、びっくりせんときや!」と、2,3枚の写真を私に差し出した。
「この人、誰か分かるか?知っているか?」と、いつもと違う声のトーンで聞くのだ。
何か異様な雰囲気なので、ドキドキしながら写真を見た。全く知らない綺麗な若い女の人だった。
「知らん。誰やの?」姉は また、声のトーンを低くして、時間をかけて・・・・・・
「びっくりしたらあかんで、あのな、あのな、実はな 私のお姉さんや!」・・・・・。
「・・?えっ!なんて!?お姉さん?だれの?」「私の!」「・・?じゃ~私のお姉さんでもある?」
「それはちがうねん!あんたは違うねん!私のお姉さんでよそに貰われていかはってん!」
「えっ!じゃ~私は?」「あんたは私とは血が繋がっていないねん!あんたはこの家に貰われてきてん!」
「じゃ~じゃ~お兄ちゃんは?」「お兄ちゃんと私は繋がっている」「私は何処の子!」「それは知らん!」
もう、もう、ワケが分からん!私は、ただ、ただそこからは、大泣きに泣いていた。
「私は、私は何処の子、誰が・・・・」わあ~わあ~と、声がかれるくらいに泣いていたら、
姉が転げるように笑いながら、「ハハハハ・・・単純やナ~~こんな嘘にだまされてからに!ハハハ・・・」
まだ泣きながら「ひっく ひっく じゃ~ほんまは誰やこの人!ひっく」今度は冷静な感じにトーンを変えて
「あのな、あのな、私らのお母さんになる人や!」「えっ!なんて!なんで?こんな若い人が!お母さんって!」
又もやワケが分からん!若すぎる!どういうことや!「若いし綺麗やろ!お兄ちゃんと3つしか違わへんやて!」
「えっ!じゃ~お父さんと幾ら違うの?」「そうやな~~およそ25歳は違うやろ!」「えっ!そ、そんなに!」
「せやからもうすぐ引越しやで!新しい学校に行くねんで!」「えっ、ど、何処に!」「さあ?まぁそういうこと!」
<何がそういうことや!さんざん、からかって泣かしてからに、結果は、もっと酷い結末やないか!あんまりやないか!
これからどうなるのやろ!何処に引っ越すのやろ!>父と姉は私の知らないところで何時も話をしていたのだ。
なんだか、体の力が抜けて行く。あまりに泣いたからかだるくて何も考えられない!
大きな嘘より現実の方が怖かった!<父が再婚する>母に会うことがあるかも?という淡い想いもなくなる。
すっかり陽射しがなくなった部屋で、いわれもなく襲う不安と寂しさが私から平和を奪っていった。