幼き頃から56・・・少女M子・番外編2

そんなささやかな幸せも長くは続きませんでした。しばらくして、ええ、期末テストも、

済んでもう直ぐ2学期が終るという頃だったと思います。

木曜日の5時間目の、 ホーム・ルームの時「J」のことが、議題に出されたのです。

黒板に書かれたその文字を見た時、わたしは顔から火が出そうになり、思わず下を向いて しまいました。

ああ、もうおしまいだ。これでわたしとM子ちゃんとの秘密がみんなに、 ばれてしまう。

そして「J」のことも・・・。心臓がどきどきして、誰かにその音を、 聞かれやしないかと、

知らず知らずのうちにセーラー服の胸のところをギュッと、 押さえていました。

わたしはもう何が何だか解からなくなって、頭の中がぐるぐると 回りだして・・・。

それでも「J」の秘密は守らなきゃいけない、M子ちゃんとのことは、 誰にも知られてはいけないって、

そのことだけは心の中で繰り返し繰り返し呟いていました。

やがて「・・・したことのある人は、正直に手を上げてください」っていう委員長のくぐもった声が、

耳の奥に響いてきた時、わたしは恐ろしくて恐ろしくて仕方がなかったんですけど、

目をつむって、 両手でハンケチをぐっと握り締めたまま膝の上に押し付けていました。

しばらくすると周囲が少しざわつき始めたので、ふと目を上げてみると、わたしはもう息が詰まりそうに、

なってしまいました。だって、わたし以外の全員が手を上げていたんですから。

思わずM子ちゃんの方を見ると、 M子ちゃんもじっと前を向いたまま、少しふてくされるようにして手を

斜め上に上げていました。どうして・・「J」は二人だけの秘密じゃなかったの?。

何でみんなも「J」を・・・? わたしの視線に気付いたののか、M子ちゃんはわたしの方に向き直り小声で

こう言ったのです。 「裏切り者」・・・そう、M子ちゃんは、秘密を守ろうとひとり手を上げなかったわたしを

責めていたのです。 もちろんそれは秘密でも何でもなくって、少なくともM子ちゃんが、わたしに口止めしたのは、

そんなに深い意味でも、 何でもなくって、今にして思えば、自分の口から他のクラスメートに

広めたかっただけだったかも知れません。 それでもその時は、あふれる涙を止めることもできずに、

M子ちゃんに向って何度も何度も「ごめんなさい」と、 繰り返すことしかできなかったのです。

こうしてわたしとM子ちゃんの「J」は終わりました。 M子ちゃんはそれ以来、ひとことも「J」のことを口にしなくなり、

わたしといえばM子ちゃんとも、ほかの クラスメートとも、すっかり気まずくなり、

教室でも一人で過ごすことが多くなりました。 でも、実はそれからなんです。

ますますわたしが、「J」に溺れ、最後には×××××[五字抹消]をしてまで 「J」を手に入れようと するようになったのは。

だって、淋しくて・・本当に淋しかったんですもの。 いいえ、決して今でもM子ちゃんのことを、 恨んだりなんかしてません。

だって、M子ちゃんにしてみれば、ほんの気まぐれだったのかも知れないけれど、 「J」の ことを一番最初に教えてくれたのは、

このわたしだったんだから。 ・・・ごめんなさい、すっかり長話になってしまって。

それじゃ、わたしもう行かなきゃ。

そうして、少女は門の中へと消えていった。

うらた 少女

漫画家 うらたじゅん・作

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