幼き頃・・42・・好きでなかった兄。(1)

「うぉ~~ん、、うぇ~~ん、ぐぉ~~ん」すごい、悲鳴か、泣き声か、うなり声が山から響いてくる。

外はもうすっかり夜、真っ暗、 何? あっ、あれは私の嫌いな兄ちゃんの泣き声や!

今日の夕方だったか、いつだったか?ボーッとしていて、何だったかよく覚えてない。

よく分からない事、でも大変な怖い事があったのは確かだ。

すべてはあの吠えている兄ちゃんのせいだ。たしか兄ちゃんは五右衛門風呂を沸かしてた。

誰も頼んでいないのに、火を熾してふーふーと吹いてがんばってた。

そういう時は目的がある。私達を寄せ付けない。ずるい事をやってる時だ。

家の五右衛門風呂は炊き口が工夫されていて、炊き口以外にいっぱい入り口があり、そこで焼き芋や、

焼き栗が出来るようになっていた。その時、一人で栗を焼いていたから、私達を側に寄せ付けなかったのだ。

何時でもひとり占めをする。ずるい奴だった。

そこに、そんな事を全く知らないでいた<繋がりがよく分からないおばあちゃん>が、その炊き口に近寄った。

(その頃、何か知らないが、大人の事情で遠い親戚のおばあちゃんを引き取っていた。)

あっという間に、事は起こっていた。

おばあちゃんが山を裸足で逃げて行く!「わあ~~たすけて~~わあ~~」と叫びながら駆けて行く。

その後ろを、竹箒を振りかざし、「うぉ~~うぉ~」と喚きながら兄ちゃんが追い掛け回していたのだ。

怖くて怖くて、どうして良いか分からなかった。多分大声で私も泣いていたのだと思う、そのうち泣きつかれて

寝てしまったのだろう。5歳ぐらいだから当たり前だと思う。父も母もいなかったが、頼もしい姉がいた。

その収束は、きっと頼もしい姉が、兄を怒鳴りつけて、終わったのだと思った。<兄の方が2歳年上ではある。>

そのうち、母や父が帰って来て、父が兄ちゃんを裸にして、<何故?裸にしたのか?分からないが>

そのまま山に連れて行き、松の木に縄でぐるぐる巻きにくくりつけたのだ。

外は暗いし寒い、あの声は続いている、時間がかなり経った頃、父は山に行き、泣いている兄を連れて帰ってきた。

寒さで震えていたし、鼻水や涙で、顔はぐちゃぐちゃで、もうぼろぼろだった。日ごろの兄とは別人だ。

「ごめんなさい!もうしません。ごめんなさい!許して下さい」と、必死に誤っていた。

そんな兄を、父は仏壇の前に座らせ、そこでまた誤らせた。家では、悪いことをすると仏壇の前で手を合わせて

誤ることになっていた。それに加えて、本当に悪い事したときは、足の裏にお灸をすえられる。

次の日、父が、おばあちゃんを何処かに連れて行ってしまった。おばあちゃんの名前も、何も知らないうちに。

ただ、朝、チラッと見たとき、おばあちゃんが震えていたように記憶しているのは、私の勝手な想像だろうか?

6歳年上の兄を一度も好きになれなかった。 末期の肝臓がんで死ぬまで好きになれなかった。

亡くなる2、3日前、痛みで顔をゆがめ、モルヒネで朦朧としている中、ぼさっと言った。

「わしが、こんなに苦しんで死ぬのは、あのばあさんに竹箒を持って追い掛け回したバチかなあ~~」と。

「そうやわ!きっと!あの世で会ったら誤りや!」と、私もぽつりと返した。最後に交わした会話だった。

兄は覚えていたのだ。強く覚えていたのだ。 心が痛んでいた?そうであって欲しいとほんの一瞬だが願った。

でも、そんな兄を、最後まで好きにはならなかった。

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