クラスで、なんでも、持ち得た男の子が、市川で、女の子はAさんだった。
背は男の子をも、抜いていて、すらっとしているし、目が黒々として、眉毛もはっきりとして
意志の強さを表わしていた。勉強は女子では一番、いつも市川と競う合う成績だった。
<市川>は名指しで、申し訳ない気がしないでもないが、関係性としては、そんな感じなんだ。
私からすると、市川とAさんは、私達と違う世界で生きている人たちに、映っていた。
だからと言って自分を卑下していたのではないのだが、Aさんに関しては、やはり、まぶしい存在だった。
彼女の家はその頃には珍しく、ピアノを教えている家だったのだ。もちろん彼女も上手く、音楽の時間は、
先生の替わりに、オルガンを弾いていた。3年生ぐらいから同じクラスだったのだが、先生の替わりに
授業中のオルガンを弾く彼女が、始めは眩しすぎて、声もかけられなかった。
やっと話せるようになったのは、5年生になってからだった。
叔母の家に、預けられて居る時、市川の家もその子の家も、近いと分かったのだった。
あの情けない雑種犬を散歩していて、見つけたのだ。
「ピアノ教えます。」の、看板。それがAさんのところだった。表札を見て分かり、何故か、どきどきした。
看板を見ただけで憧れのピアノ!それと、聞こえてくるピアノの音!そろばんも習えないのにピアノなんか
到底無理な家だったから、ピアノというのは特別だった。家の中から聞こえてくるピアノの音、別世界のように
思えた。その後何度か帰りを、Aさんと同じにして帰ったのだが、決して寄って行く?との誘いはなかった。
こちらはとても期待していたのだが、その点も、なんとなく皆よりお姉さん的な雰囲気で、子供っぽくはなく、
貫禄があった。こちらからも、寄って行きたいとは言い出せない扉が、あった。
5年生とかで、どうしてあんな風に、大人の匂いをだせていたのだろうか?
「さよなら」という時に、やっと少し笑うのだが、その笑い方が、<ふっと>していて、大人だったのだ。
私だって他の子供より、大人びた点があって粋がっていたように思うのに、完全に貫禄負けしていた。
あの<ふっと>して、笑ったような顔で、「さよなら」と言うのを見た時、「あかん!やられた!」と。
どんなに<ふっと>笑う練習をして見ても、本物には叶わなかった。こちらは必死に大人びてみようと、
背伸びをしていただけだと、本物とはこういうものだと、思い知らされた現実だった。
<ふっと>笑うAさんもいづこに!。