「う~~ん、なんやろ?くるしい~~。目~が、なんか、あかへん。おかあ~ちゃん~~~!。
声もで~へん?。なんでや、おかしい?なんか熱い、口の中が、ネバネバ、ぬるぬるする。
目~をあけなあかん。顔の上になんやひらひらしたもんが、ときどき、あたる?変な声も
聞こえる?熱い!とにかく目~をあけよう!」 やっと少し開いた目に変な人が、ひらひらしたものを、
私に振っている。「なんや、しらん、おばちゃんや!なにしてるの?」「う~~ん、えい!やあ~~えい!」
うなっている。「なんなんや、私はどうしたのや!そうや!お母ちゃんも誰もいないとき、しんどうなって
泣いて泣いて泣き叫んでた。そしたら、下の方の畑から近所の人が来て布団に寝かせてくれた。
その後は、覚えていない!」どうやら、凄い熱のようだ。ほんで、この人はどうしてる人なん?なんなんや!
どうやら近所の人が呼んで来たらしい。兄と姉が側にいた。二人は私が大変なのに、なんか笑っている。
絶対に二人とも、笑っている。 というより、必死に笑いをこらえているみたいや。
「え~~~い~~~!!」と、一段と大きな声で私の体の上で、なにやら呪文のようなことをして、兄と姉に
「へっついさんの釜の墨を取っておいで!それを水にいれておいで!」と、怖くいったので、二人とも
いそいで、釜の墨(煤)を、とりに行った。怖かったのか、二人は笑ってはいなかった。
コップに黒い液体が運ばれて来た。 「ま、ま、まさか、これ、飲まされるのとちがうやろな!いややで~~」
嫌な予感は的中した。 「はい、これを飲み!熱がさがるから!」と口に持ってこられた。「え~~こんなん!
いやや!お母ちゃん!何処へいったんや!」嫌がる私に無理やりに飲むよういわれ、少し口にいれた。
苦いのか、なんなのか、分からない。かなりの熱で何も分からない。逆に気持ちが悪くなった。
兄と姉はそんな私を見て、また、笑っていた。<こいつらはなんや!絶対にゆるせへんからな!>
気持ちが悪くなった途端に咳き込んだ。すると、口から鼻から、噴水のように血が吹き出て、顔も頭も
何もかも、血だらけになった。近所の人も、その怪しげな祈祷師みたいな人も「ひやああ~~」と、叫んでいた。
そのまま、私はまた何も分からず眠りつづけた。
どれだけ寝ていたか、分からない。が、目を開けると父と母が側にいた。姉と兄はいない。あれから何度か、
血を吹いていたらしい。心配そうな、母と父を見て、ほっとして、また眠りについた。次に起きた時は、白衣を着た
お医者さんが来られていた。どうやら、はしかのようだが、とにかくとんでもない高熱が続いていたので、毎日
医者が来ていたようだ。もう何日もたっていたのも何も、分からないほど、熱もさがらず、血も止まらずだった。
それでも、だんだんと元気が出てきて、話す事も出来た頃、枕元をみると、凄い大きな房のままの、「バナナ」が
おいてあった。父が、買ってきたのだろう。なにも食べる事が出来なかったからだ。そういえば、ときおり、
小さく襖を、そぉ~と、開ける兄と姉がいたが、決して私を心配してたのでなく、この「バナナ」を心配していたのだ。
それが、分かってからは、襖が開くたびに、絶対にやらないという態度をみせてやった。しかし、いつまでも、
食べれるようにならないために、とうとう、あの憎たらしい二人の口に入っていってしまった。なんと腹だたしいことか!
すっかり良くなり、いよいよ学校に行ける事になった。その前日、少しパーマが残ってカールされた自慢の髪の毛は、
血で固まり梳くことも、洗い流す事もできず、ばっさりと切り落とされた。今で言うレゲェーのおじさん状態だったのだ。
切り落とされた髪の毛を見て、「バナナ」を食べれなかったことより、悲しかった。
医者も祈祷師も、両親も、もちろん私も、びっくりの「はしか」だった。喜んでいたのは、ただただ、あの兄と姉だった。