箕面から帰って、しばらくすると、近所の叔母の所に預けられていた姉が来て、
(その頃姉か私のどちらか叔母の所、祖母の所と、分かれて預けられていた)
少し怖い顔で、部屋の隅に連れて行かれ聞かれた。
「あんた、箕面は楽しかったか?そこに女の人が居たはったやろ!なんか買うてもうたやろ!
なんも知らんとからに!」姉が、やや、意地悪そうに言う。そのことに、戸惑いながら、
「なに?よしこさんって言う人やったけど」「ふん!なんも、知らんとからに!あのな!その人な!
私らの新しいお母さんになろうと思うてな!先ずはあんたを手なずけて、馴らそうとしてはってん!」
「え~っお母さん!なんで?」なんか、姉は意地悪に加えて怒っている。
「お父さんに手紙が来てた。見てみ!早く迎えに来てくださいと書いてある。」と。
姉は、時々平気でこんな事をした。父に来た手紙を、無断で読んだことになる。
中学になってからやたら強気で、はっきりと物を言う人間になっていた。
私からすると、とても大人になった姉に見えていた。
手紙は、読まないで、ただただ<新しいお母さん>の響きにショックを受け、意味無く泣いた。
あの人が嫌いとか、嫌とかではなく、想像もしなかった事態に、ただただ泣いた。
<母とはもう会えない、もう帰って来ない>の想いが、はっきりしたからだったかも知れない。
でも、その横で姉は何故か、ほんの少し薄ら笑いをしていたのは、忘れない!
何故、姉はあの時笑っていたのだろうか?
結果として、父はあのよしこさんとは再婚しなかった。
父はとても面食いだった。人の良いだけが顔に出ているよしこさんとは一緒にならなかった。
ひょっとして、姉のあの薄ら笑いは、その事をすでに分かっていたのかも。
そうだとしたら、なんと恐ろるべし中学生と言う事になる。
それから、3年、私が中学生になったとき、何人かの友達と箕面に行く事になり、父にこずかいを貰う時、
父は、「あそこに寄ったらあかんで!」と一言、やや怖い顔で言った。
父は、酷いことをよしこさんにした酷い男だと知る。
もちろん、旅館に寄ることはなかったが、何も変わらず静かなたたづまいだった。
一人で遊んだ川も綺麗な流れのままだった。一応、うなぎも探して川を見ていた。
<ここで、よしこさんに会ったらどうしょう>とだけ、かすかに思いながら滝に向った。