幼き頃・・37・・鋳掛け屋ならぬ直し屋

昔はいろんな職業の人が、ご用聞きに来ていた。毎日は魚屋、月始めや15日頃は花屋、これは

仏さんや神さんに供えるための花だからだ。

野菜や漬物などのいろいろ屋さん、そして月に一度ぐらいに「なおし屋」傘や下駄の直しなどである。

大きな自転車にいろんな道具を積んで来る。「なお~~なお~~直しぃ~~」と言いながら来る。

残念なのは、今でもこの言い方はかなり正確に伝えられるのに、ブログに声は吹き込めない事が

くやしい。母のあのオペラの歌だって、確実に歌えるのに、本当に残念!

その声が聞こえると、私はワクワクした。おじさんは、私の家の前にゴザを敷いて、そこで仕事する。

傘を持ってくる人や、下駄の鼻緒をすえ替えに来る人など、自分の直して貰うのを置いて帰っていく。

おばあちゃんは、利休下駄を履いていたので、下駄の歯を取り替えるのだ。その作業を見るのが大好きだった。

のちに、落語で<鋳掛屋>の話を聞いていて、私はあの<鋳掛屋>の、生意気に話す子供のようだったかも。

でも、話すより手元を見ているのが好きだった。特におばあちゃんの下駄だ。とても歯が短くなり、歯の端が、

へたって開いているのを、ペンチのような物で挟み込んで、抜いてしまう。そこに、新しい歯の合うのを挟み込む。

コンコンと打ち付けてしっかりはめていく。歯が下駄からはみ出しているのを、ノミでコンコンと梳りだして合わせる。

この作業がともかく見事だった。どれだけ見ていても飽きる事はなかった。きちんと見ていたので、もし今、その仕事が

私に回ってきたら出来る気がする。本当にやれると思うぐらいに、見つづけていたのだ。普通の下駄の歯には、

ゴムを張っていた。ゴムは多分自転車のタイヤだったようだ。おじちゃんは口から短い釘を出して打っていった。

始めは口に釘を入れているのが、びっくりだったが慣れてくると、その技も見とれてしまっていた。

その他に鍋やヤカンの穴の開いたのを、上手く埋めていた。おじちゃんにかかるとどんな物も、直してしまう。凄い人だった。

あんな人は、その後に見た事もなかったが、いつの間にか世の中が、物を直してまで使う事をしなくなってしまっていた。

あのおじちゃんのような仕事もなくなってしまったのだ。

おじちゃんのまん前で、じっと見ている女の子を、おじちゃんはどう思っていただろうか。

あの、素敵な呼び声「なお~~なお~~なおしぃ~~」

ああ~~大きな声で言ってみたい!。言えたら 快感!だわさ~~。

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