店を開店した当時、不思議な夢ばかり見ていた。
きっと、慣れない事や、緊張や不安がそうさせていたのだろう。
この夢がその頃一番不思議な話。話をしたら、漫画家Jちゃんが、
つげ義春みたいな夢やねと、今は亡くなられた小説家「川崎彰彦」さんと
一緒に言われた。「そんなのを書き留めていたらいいよ」と言われた。
それを、面白い漫画にして後にプレゼントをしてくれたJさんです。
長く店に飾っていたので、すっかりセピア色になっています。
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「こうもり横丁」
友人が沖縄からの土産と言って手のひらの上に石を乗せる。その石には仏のような
彫り物がされていて、非常に興味をそそる。「もっとすごい彫り物の石があったで!
洞窟でみた」と言う。じゃ皆で沖縄へ行こうと店から出たら、すぐに沖縄であった。
急に淋しい通りに出てくると一軒ぽつりと「はんこや」がある。いかにも職人気質風の
おじいさんが黙々と判を彫っている。
その横のガラスのケースの中に象牙で出来たブレスレットが二つ飾られている。
店の若い子がそれを欲しがると、男の友人が買ってやると言い出す。一同びっくり!
何故かと言えば彼は日頃、非常に貧乏なのである。すんなり女の子に4800円也の
プレゼントをするなど考えられないのである。そんな二人を置いて「先に行くから」と
先へ進むと、何ともいえないじっとりとした石畳横丁に入り込む。石畳は所々はがれて
水が溜まり、におうように黒く光っていた。人が二人やっと通れる位の道幅で、両側の、
長屋の屋根は頭の高さ位に迫って来ている。すりガラス戸、窓もすりガラスで、何軒かの
家からぽつりぽつりとはだか電球の灯が光っていた。
その路地を少し入ったところで、急に「シャワシャワ~~」と、通りすぎるものがあり、
驚いていると、小説家の川崎氏が突然現れ、「今のは、こうもりです。この向こうに、
何万と居る巣があり、この通りはこうもりが夕方になると通るのです。皆、こうもり横丁と
呼んでいます。だから、夕方になると一軒も飲み屋は閉めて開いている店はないのです。」
と不思議な話。じゃ~飲み屋はいったい 何時から営業するのかと思いつつ、でも早く、
目的の洞窟へ行かなければ、私達もこうもり横丁を通って帰れなくなる。急ぐ、突如、洞窟。
滝が流れている。友人に石に彫っている素敵な石像のありかを聞くと、馬鹿みたいに小さな
何処にでもありそうな地蔵さんに似た石だった。がっかりしたところで目が覚めたのだが、
こうもり横丁の印象が、脳裏に残った夢だった。