「実録・川上事件」「夏休みの友」よりJの報告・<聞き手 のの>として。
イラストはJ、さすがプロの漫画家。すべてみんなそっくりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これは19年間の中でも歴史に残る最大の事件である。
その日、店主こと私は芝居の打ち合わせのため、店をJとPに任せ、京都に行く。
今のように携帯はない。店には時々電話をかけて様子を聞いたりする。
その日は11時過ぎに帰った。帰るとカウンターに誰かが居た形跡・・・?
何だか皆がざわついている。口々にいろんな事をを息を切らせながら話す。
そこへぜいぜいと息を切らしたおったん(トイレに白鯨を落とした)が、
「どこにもおらん!」と。
そして・・そのいきさつはこうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日は月曜日、比較的、暇な日だ。
女性スタッフだけの店だから、お客もその日バイトの無いスタッフがいたりする。
会社帰りの酒飲みKが一番、次に白玉ちゃんことプッツンさんが一緒に飲みだす。
スタッフ4人がぺちゃぺちゃと会話する中、見知らぬ客が入って来た。
地味な作業服を着た印象の薄い中年男性。
お絞りと箸を出すと「へぇ~箸紙も手づくりですか?」と感心していた。
「レトロな良い店ですね」とか、いろいろ褒め出す。
オブジェが良いとか裸電球も看板や玄関も素敵と賞賛しだした。
それぞれの分野を私の友人が作ってくれた。だから、私の店だがみんなの店でもあった。
看板は樹脂にビー玉を埋め込んで木枠で作られた絵描きのF氏。
<看板を作ってくれたF氏>
カウンターには、動物がハマッテいる。
これは手づくり木工のマー坊さん。
奥の4畳半ほどの床は、私がトンカチを握り
厚ベニヤ35センチ角を切りはめ込んだ。
劇団では女性もトンカチを握り、装置作りもするので
<お茶の子さいさい>だった。
そんな話を中年男に話すと「ママさんは?今日は?」
と聞くので劇団に行ったと。
その後もいろいろ話し女性4人に囲まれ大満足し、
一番高い<VSOP>をキープ。
「お近づきのしるしに一杯いかがですか?」とJにすすめて来た。
仕事中の二人は断り酒が好きなKが「じゃあ、一杯だけ」と、杯を交わした。
キープノートに記入して貰うので、ノートを出すと東京の上北沢と川上と書いた。
「東京の方ですか?単身赴任ですか?」「はい、単身赴任で来年の一月まで居ます。」
P「私のお父さんも単身赴任で、今独身寮にいます、寮ですか?」J「もしかして、
あそこの電気の?」「ええ」「この店はそこの人多いから、誰かから聞いて来られたの?」
「いえ、昨日来たばかりなんで」「ここは、ふだんそこの寮の人でにぎわっているから、
寮のめしや!みたいに言われてるくらいなんです」とJは張り切って、注文の料理を作った。
彼は公衆電話(ピンク)の所に行き「まだ仕事終りませんか?」「いい店ですよ」
「駅まで迎えに行きますよ」「どこでもいいですよ、迎えに行きますから」と電話を切った。
「一緒に単身赴任して来た同僚を誘いました」彼は景気良く10品位の注文をし、その上
やきめしとちゃんこも頼んだ。隣にいたKとプッツンちゃんもびっくり!えっと顔を見た。
かなりの量なので、食べられますか?と聞いたら、「ちょっと味見したくて」
Kはもう一杯頂いていた。プッツンさんが「もしかしておじさん九州じゃないですか?」
「ええ、そうですけど、良く分かりましたね」「九州なまりがあるから、九州弁好きなんで」
「君、名取裕子に似てるね」「たまに言われます」「君はあのフォークソングの二人の・・」
「トワエモアですか?」「そうそう、似てるわ」「昔言われました」とJが応える。
「その人、でもブスでしょ」「いや、仕事でテレビ局に行く事ありますが皆さん綺麗ですよ」
テレビ局?で、「どんな仕事されているですか?」とP、「電気技術です」なるほど・・。
Pに「夏目雅子さんにも会ったな、君少し、似てるよ」P照れる。
<夏目雅子とトワエモア> <小林千登勢と名取裕子>
Kには小林千登勢と言われ皆、調子にのり<VSOP>は半分になった。
おもむろに「赤だしある?」「普通の味噌汁なら」
「じゃ~それを作っておいて、友達迎えに行ってくるから」と別の店に迎えに行くと、
「友達連れてすぐに戻るから、彼もきっと気に入るよ」と出て行く。そして・・・
彼の席に置いた味噌汁はすっかり冷え、
30分経っても帰って来ず、皆もおかしいと?。
寮の常連も来たので、川上の事を言うと
「寮には単身赴任は入れないし、へんやな~~?」
でも、誰にかけていたのだあの電話?は、
皆に不安がぼちぼちとよぎりだしたその時、
おったん(白鯨をトイレに落とした)が入って来て
「ここ誰?」。みんなで今までのいきさつを言うと
「よっしゃ!探して来る!」とすわっ一大事と、
オットコ前に飛び出していった。
そこへ、私が帰って来、まだ何もいきさつも聞いてない時に、
ぜーぜーと入って来たおったんであったのだ。「おらんで!どこにも!」と。
<男前のおったん!>
翌日寮の男の子が調べてくれた、川上も単身赴任の人も
存在しなかった。
私は川上のボトル<VSOP>を通常のキープ棚には置かず、
飾りだなに厳かに置いた。
その日以来、しばらくは川上遊びが流行った。
「二階堂キープ、川上につけといて」
「じゃあ~~友達迎えに行って来るから赤だし作っておいて」
と具合に・・。
しかし彼は何も言ってないのだ、電気関連会社・単身赴任・寮・九州・の話など
全てこちらが聞いて言っているのだ!お膳立てしていたのだ。
川上は、途中から<これは行ける!>と思ったのだ?
川上よ、いづこに! 店主のわたしゃ! お主の顔を見ていないのじゃ!