あだ名をつける名人かも・・2

店を始めて間もない頃、私もまだ慣れていないど素人。

変な客は来ないか、喧嘩などないだろうかなど、いろいろ不安を抱えての毎日。

幸いな事に常連は友人が多く、知らない人でもいつの間にかお互いに親しくなり、

杯を交わしていて、始めの頃としてはかなり順調だった。

そんな時、だれの紹介でもない若者が、馴染みのメンバーと親しくなり若いので、

みんなに可愛がられていた。Hちゃんが常連に加わる。

彼はうれしそうに「若いけど僕結婚していま~す。嫁さんはIちゃん、女の子が

生まれたところで~す。Iちゃんと娘愛してま~す」なんて大声で言ってました。

私の注目を浴びたいときはわざわざ席を立ち、「はいはいはい、ママさん僕は、

キープします!二階堂を!」と、凄くアピールする。

学校の先生に応える生徒みたいな感じで。嫁がいながら甘えたなんだなと思った。

来るたびに「はいはい、今からIちゃんの好きなケーキを買ってかえりま~す。」

とこれまた大袈裟に報告をする。そんなことが何度かあり、日曜の昼、何人かで、

会う約束をした。しかし、彼だけが来ないので自宅に電話をする。

「もしもしHさんのお宅ですか?ナニナニさんは居られますか?」少ししわがれた声、

「お宅どなたナニナニはいませんが」「私はナニナニの店のものです。約束があって」

「お宅でっか!息子をたぶらかしてからに、毎晩、そちらに行ってまんねんやろ!

なんか、安もんの指輪なんか、はめてまっけど、お宅がくれて騙さはるのでっか!」

えっなんの事?さっぱり分からず。「どういうことですか?ナニナニさんは結婚されて

ますよね。お嫁さんはIちゃんで娘さんの赤ちゃんも居ると聞いてますけど。

うちの店の帰りにはケーキなどをお土産に買って帰られてますが・・」

しばらく相手は無言で・・はぁ~~と深いため息が聞こえて来た。はあ~~と二度ほど・・。

「それみんな噓でんねん。あの子はそんな噓をついてまっか!小さい時からそんな癖があり、

このごろはなかったんで。小学校の頃は一人っ子なのに妹がいると友達にずっと噓をついて。

自分が欲しい物を作り出しそれを話すんですわ。よう言うて聞かせますわ。」はぁ~と切る。

すいませんは無し、若い男をたぶらかす性悪女にしてからに!誤らんかい!責任者出て来い!

その話を聞いた私の方が訳が分からず、しばらく口はあんぐりで・・皆に話すと皆も、

どういうことなんや。あのケーキは誰のための土産やったんやとか、いろいろ話し出だす。

結婚しているのにしていないと噓をつくのなら分かるが、していないのに結婚してると

言う人間がいるなんて、ましてや子供まで。本当に理解に苦しんだ。

それ以来H君は姿を見せなくなった。居なくなった彼につけたあだ名は、

<うそつきHちゃん>で、本人が居ないのに話題はしばらく残った。

皆いちいち<うそつきHちゃんがこうだった、ああだった>という風に楽しんだ。

なんでも直ぐに楽しむ呑気な店だった。

人が噓を着く時、たとえば小鼻がぴくぴくする、声が高くなる、目がおよぐ、

目を見ない、どこか落ち着かない、とかがあるが、彼はそのどれもがなかった。

だって彼の中では本当の話だったのだから。おみごと!恐れ入りやのタメゴロウ!

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