毎日新聞より・作家・島田雅彦さんの言葉。

特集ワイド:この国はどこへ行こうとしているのか 「平和」の名の下に 作家・島田雅彦さん

毎日新聞 2015年07月14日 東京夕刊

 ◇憲法を憎んでいるのか

 「今の安倍晋三政権は、現行憲法を憎んでいるのではないですかね……」

 憲法を、憎む−−。強い感情を示す言葉が、現代文学を代表する作家の一人、島田雅彦さん(54)の
口からこぼれ落ちた時には、さすがに驚いた。

 安倍政権について「憲法を軽んじている」「憲法尊重擁護義務を定めた99条違反だ」などの論評は
今や至る所で聞く。それでも「憎んでいる」という表現は初めて聞いた気がした。

 もっとも安倍首相が「解釈改憲」による集団的自衛権の行使にこだわるのは「対等な日米関係」が祖父、
岸信介元首相の宿願だったから、とよく語られるし、「首相の執念がなければここまで来られなかった」
(官邸関係者)との指摘もある。宿願、執念……。
安倍首相を突き動かすものが、芥川賞の選考委員でもある作家の目には「憎しみ」と見えるのだろうか。

 法政大の高層棟にある研究室。窓の外は、霧雨にけむる。

 「安倍首相は最初、改憲のハードルを下げるために96条に手を付けようとした。
だが、現行憲法の規定に従わなければならないので、今度は解釈変更で乗り切ろうとした。
それが今回の『戦争法案』です。
つまり安倍政権のやりたいことをことごとく邪魔するのが現行憲法、という構図です。
しかし1票の格差が是正されない状態で成立した政権も違憲だが、この法案も違憲。
政権の意向に憲法を従わせようなんて本末転倒です」

 実際、憲法学者らが安全保障関連法案に「違憲」判断を突きつけたことが世論を動かし、
安倍政権は今、支持率を落としつつある。

 「現行憲法のことを米国からの『押しつけ』だから改正しようと言う。
しかし同じ『押しつけ』であっても日米安保条約はかたくなに守ろうとする。
大変な矛盾ではないか。安倍政権は、憲法より日米安保条約を上位に置こうとしているのです」

 1983年、東京外国語大在学中に「優しいサヨクのための嬉遊(きゆう)曲」でデビュー。
イデオロギーなどいらないと「左翼」ではなく「サヨク」を自称し、若い頃から「青二才」「亡命」
「郊外」などをキーワードに若者や時代を語ってきた。

 91年の湾岸戦争では「日本が湾岸戦争および今後ありうべき一切の戦争に加担することに反対する」と
作家仲間らと声明を発表。
2001年には、表現・報道の自由を制限すると懸念された個人情報保護法案の反対集会に出席した。

 今年6月12日には、日中韓3カ国の文学者が討議する「第3回東アジア文学フォーラム」に参加し
、北京市内で共同記者会見を開いた。会見での「今の日本には史上最も好ましくない首相がいる」
「愚かな政治家が対立の種をまいたとしても、どこかで和解に向かう粘り強い努力が必要。
個々は微力でもそこに貢献したい」という発言が国内外で報道され、話題を呼んだ。

 なぜ島田さんはひるまず政権批判を続けるのか。そう問うと、こんな答えが返ってきた。

 「小説家だから」

 続けて言う。「『小説』は『小さい説』、つまり個人の生活と意見のこと。
対になるのは『大説』『大きい説』。政治経済、国家を論じることです。
大説が多様性を失い、単純化し、多くの矛盾を抱えている現状では、大説に異論を唱えることが小説の役割となる。
書きたいことを書けなくなれば小説家は終わりです。職業上の自由を保障してくれているのが憲法です」

 だから批判的精神を失わず異論を唱えていくことが、小説家の役目、というわけだ。

 憲法への思いは深い。「今一度、現行憲法を読んでみると、時代遅れどころか、
日本が目指すべき今後の安全保障のあり方を示唆してもいます。
日本を戦前に回帰させたがっている人は現行憲法の前文の規定を『ユートピア的』と批判するが、
憲法が国民の自由と権利を保障し、平和を希求しているからこそ、戦争に行けといわれても、断ることができ、
政府を批判することもできるのです。
今春、戦没者慰霊のためにパラオを訪問し話題になった天皇陛下も、憲法を守り、二度と戦争をしないことを述べておられます」

 安保法案の採決強行は秒読み段階だ。しかし島田さんは悲観していない。
「国会の場では数の力に任せて強行採決もできるでしょうが、支持率低下と引き換えになる。
ゴリ押しすることで逆に改憲の野望は遠のくのではないでしょうか」

 そう考えるのは、安保法案に反対する学生グループ「自由と民主主義のための学生緊急行動
(SEALDs=シールズ)」が国会前で抗議行動を行うなどの動きに大きな希望を感じているからだ。

 「非常に当事者意識の高い運動が育ちつつある。
この少子高齢化時代において、若者には社会に大事にされていないという不満が根強いはず。
そこに今回の安保法案で徴兵制復活までが語られ始めた。
『俺たちは戦争にまで駆り出されるのかよ?』と我が身に降りかかる危機を感じているのではないでしょうか。
実際、本当に戦争になれば、政権を批判する学生の就職の内定を取り消せとか、
島田の本なんて発禁にしろといい出すやつが今よりもっと威張り出す」

 今問題なのは、政治的なオルタナティブ(対案)が盛り上がらないことだという。
「自民党は伝統的に改憲派と護憲派、タカ派とハト派が対立構造を作り、党内に多様性があった。
今はそれが完全に失われてしまった。即席で結成された野党も右派ばかり。
最大野党の民主党は第2自民党の要素を含んでいる。
国民の間で政権批判が盛り上がろうと、批判票の受け皿となって自民党を止められる政治的オルタナティブがどこにもない。
このことが何より異常事態です。
自民党が戦時中の国家総動員制を復活させかねない中、中道左派、リベラル、ハト派の再編成が急務です」

 では今、できることは何なのか。島田さんの言葉は強く、真っすぐだった。
「一人一人が反対の意を唱え続けること。政治を動かすのは国会だけではないですから」。
デモで、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、メディアでの発言で−−。
「異議を唱え続ければ、政権の支持率低下につながります。
ネトウヨの罵詈雑言(ばりぞうごん)よりも政権批判の正論の方が強いし、説得力があるのです」

 そして最後に言い添えた。
「ベトナム戦争で米国から参戦を要請された時、集団的自衛権の行使が禁じられているから、日本は断ることができた。
一方、あの時参戦した韓国は、今もベトナムとわだかまりを残す。
戦争は負の遺産しか残しません。集団的自衛権の行使は、国の『自殺行為』です。
それを私たち国民が放置するなら、私たちだって『自殺ほう助』の罪を問われると同じことではないですか」

 「大説」に異論を唱え続ける小説家の根っこが、ようやく見えた気がした。【小国綾子】

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 ■人物略歴

 ◇しまだ・まさひこ

 1961年東京都生まれ。川崎市育ち。東京外国語大ロシア語学科卒。
6度も芥川賞候補となるがすべて落選。ポストモダン世代の旗手として日本の純文学をけん引。
2003年から法政大国際文化学部教授。芥川賞選考委員。

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とうとう、昨日強行採決された。
本当にこの国は一人の愚か者のために、とんでもない方向へ行ってしまう。

島田さんのこの話は、遅くなく語りつなぐことが、出来る話だと思った。

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