幼き頃・・・36・・洋食にしょうか?

<今日の晩御飯も、魚の粗と大根の炊いたんがのってんのか。菜っ葉とあげの炊いたんと漬物か。

もう、いつもいつも、なんかの炊いたんばっかりや。たまには、百貨店の食堂で食べるような洋食が

食べたいなあ。無理やわな、このおばあちゃんに、そんなん作れるわけ無いし。

あ~あ、梅田のおばちゃんとこやったら、百貨店の食堂に連れて行って貰えるのになあ。>

一人用の箱膳の上を眺めて、ため息をつく小学生、他の人が見ていたら何とも不思議な姿と写ったろう。

箱膳も、その頃には不似合いな感じだが、いつも使っていたし、ご飯が済むと箱膳を綺麗にふき取らないと

おばあちゃんの小言があった。 父が帰ってくる日は、少し違ったが、父だけが特別な物だったりする。

景気が良い時の日曜日に、父が居ると、時折、すき焼きをしてくれる。そんなのは滅多になかった。

もう、魚の目や口を見るのも、おぞましいくらいになっていた。

「今日は洋食にしょうか?」と、おばあちゃんが言う日がある。おばあちゃんの洋食とは、コロッケである。

間違いはない、確かに洋食だ。お金を預かり、コロッケを買いに行くのは私の係りだった。

市場の角にある、お肉屋さん!揚げたてのコロッケは、臭いだけでお腹がクウと鳴る。

次から次へと、コロッケを揚げているお肉屋さんの前は、いつも行列が出来ていた。人気があった。

一度だけ、持って帰るまでに、ズルをして食べてしまったことがある。きっと叱られるのは分かっていたのに、

食欲をそそる臭いに負けてしまった。一度やりたかったから、食べている時は幸せ気分だったが食べ終わると

すぐに、後悔の念に潰されそうだった。<なんと言おうか>と悩んだ末に考えたのは、こけて落した事にした。

どきどきしながら、「こけて落したから、私の分一ついらない」と、シュンとしながら言い訳をしたが、ばれていた。

口をもぐもぐしながら、おばあちゃんは、何も言わなかったが、ばれていた。なんとなく、それは分かった。

おばあちゃんは何か言いたい時、口をもぐもぐする。入れ歯がきっと、合わないのだが、言いたいことが、

はっきり出ないのだ。時々、入れ歯が半分ぐらい口から飛び出しそうになったりして、それはそれは怖かった。

まぁ、そんなに怒られることもなく、事は済んだ。心苦しかったがあのコロッケの味が一番だった気がする。

その後、5年生になった時、家庭科でカレーを作った。それを家ですぐに作ってみたら、おじいちゃんが、

気に入ったのか、「今日は洋食にしょうか?」と言って私のカレーを楽しみにして、材料費を渡された。

カレー粉と小麦粉をマメに炒って作る。今のようにルーはなかった。学校で習った通りに作った。

小学5年の女の子が作るカレーを、おじいちゃんとおばあちゃんが、美味しいと言って食べていたが、

最高の洋食の日だったのだろうか?本当に美味しかったのだろうか?

<洋食にしょうか?>のひびきは、私には料理の第一歩だった。

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